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【呼吸器内科・小児科】マイコプラズマ肺炎が増加しています!

[2024.08.07]

マイコプラズマ肺炎を起こしている方、検査で確定出来なくてもマイコプラズマ感染が疑われる方が非常に増えています。
当院に受診される患者さんの中でも、連日疑わしい方が何人かいらっしゃいます。
私も小学一年生の頃マイコプラズマをこじらせてしまい、1か月ほど自宅療養した感慨深い(?)感染症です。

一般的に重症化しにくいのですが、しつこく激しい咳が出ることがあるため、罹患すると辛い感染症です。
かつては4年ごと、オリンピックの年に流行を認めたため、「オリンピック病」と呼ばれたことがあるマイコプラズマ感染症。抗体の低下からこのように数年ごとに流行していたのですが、パリ五輪の年に流行するとはびっくりですね…!

マイコプラズマ感染は検査が陽性でも陰性でも、実際に感染しているのかの判断が難しい感染症です。
呼吸器内科をはじめとした、マイコプラズマを診療する機会の多い医師にぜひ相談していただければと思います。

マイコプラズマとは

マイコプラズマは、Mycoplasma属に属する非常に小さな細菌であり、他の細菌とは異なり、細胞壁を持たないことが特徴です。この細菌は動物、植物、人間に感染し、特に呼吸器系の感染症を引き起こします。
人間に感染する主な種は、Mycoplasma pneumoniaeです。

構造と特性

細胞壁を持たない

マイコプラズマは細胞壁を持たないため、一般的なβ-ラクタム系抗生物質(ペニシリンなど)が効果を示しません。代わりに、細胞膜を標的とするマクロライド系抗生物質(エリスロマイシン、クラリスロマイシン、アジスロマイシン)が効果的です。
(治療に関しては後述)

非常に小さい

マイコプラズマは0.2~0.8マイクロメートル程度の大きさで、電子顕微鏡でしか確認できないほど小さいです。この小型化により、細胞内に寄生する能力を持ちます。
これらの特性から、細菌ではありますが、ウイルス感染に近い所見を認めます。

潜伏期間

潜伏期間が2~3週間と長く、感染者が症状を示す前に他の人に感染を広げることがあります。

感染経路

1. 飛沫感染

マイコプラズマは、感染者が咳やくしゃみをする際に発生する飛沫を介して広がります。この飛沫には細菌が含まれており、近くにいる人がこれを吸い込むことで感染が成立します。特に、学校、保育施設、家庭内など、密閉された空間での感染が一般的です。

2. 接触感染

感染者の飛沫が付着した物品(例えば、食器、タオル、ドアノブなど)に触れ、その手で口や鼻に触れることで感染することもあります。このため、手洗いや消毒が感染予防に重要です。

短時間の接触では伝染りにくく、濃厚接触する環境が感染リスクが高いといえます。
家庭内はもちろん、学校や保育園、幼稚園内で集団感染を認めることがあります。

好発年齢

全年齢で発生しますが、特に5歳から20歳の子供や若年成人に多く見られます。
15歳以下の感染が全体の80%以上を占めます。
学校や保育施設など、集団生活を送る環境での感染リスクが高まります。

症状

マイコプラズマ感染症の主な症状は、咳、発熱、喉の痛み、頭痛、倦怠感です。
乾いた咳が特徴であり、夜間に悪化することが多いです。
肺炎に進行すると、より重度の咳、息切れ、胸痛が現れることがあります。

  • 呼吸器症状:乾いた咳(乾性咳嗽、空咳)、息切れ、喉の痛み
  • 全身症状:発熱、頭痛、倦怠感
  • 耳鼻科症状:耳痛、鼻づまり、喉の赤み

など

軽症の場合は「ウォーキング肺炎」として知られる比較的軽い症状にとどまることもあります。

診察所見

聴診器で胸の音を聴いてもあまり所見を認めないことがあります。
胸の音が問題ないから安心、というわけではないのです。
眼の充血、喉の発赤、中耳炎の所見などを認めることもあります。

検査所見

  • 血液検査:白血球数があまり増加しない(通常、細菌感染では増加します)やCRP(炎症反応)の上昇
  • 画像診断:胸部X線やCTスキャンで気管支炎や肺炎の影を確認します

診断確定のために、以下の検査をする場合があります。

  • 抗原迅速検査:咽頭や鼻咽頭から綿棒で拭い、検査します。数分で結果が出ますが、感度が低く、偽陰性の可能性があります。
  • PCR検査: 咽頭や鼻咽頭から綿棒で拭い、検査します。マイコプラズマDNAの検出による迅速かつ正確な診断が出来ますが、検査できる医療機関が限られます。
  • 抗体検査: 血液検査でIgMおよびIgG抗体の上昇を確認します。感染初期には抗体が上昇しないことがあるため、ペア血清といって後日再検査をして抗体上昇を確認することがあります。

治療

第一選択はマクロライド系抗菌薬です。

服用後48-72時間経過しても解熱しない場合にはマクロライド耐性菌と判断して抗菌薬の変更を考慮します。

解熱せず耐性菌が疑われる場合には、テトラサイクリン系やフルオロキノロン系の抗生物質が使用されることがあります。

テトラサイクリン系抗菌薬は妊婦さんや8歳未満の小児には禁忌です!(歯牙黄染という副作用が起きるため)

その他、症状にあわせて去痰薬や解熱剤などを処方します。

ごくまれに劇症化(激しい炎症を起こす)ことがあります。その際には全身ステロイドを使用することもあります。

軽症の場合には抗菌薬なしで経過をみる場合もあります。

予後

マイコプラズマ感染症の予後は通常良好ですが、合併症が発生した場合や治療が遅れた場合には長期的な経過観察が必要です。
特に頑固な咳が残ることがあり、この時点で受診される方もいらっしゃいます。

耐性菌について

近年、マイコプラズマ肺炎の治療に使用されるマクロライド系抗生物質に対する耐性菌の増加が世界的に報告されています。日本における耐性菌の割合は50%以上と高く、特に小児において問題となっています​ ​。
軽い風邪にも抗菌薬が処方されるなど、抗菌薬の過剰使用や不適切な使用が一因と考えられており、治療の選択肢を制限する結果となっています。
耐性菌問題の対策として、迅速かつ正確な診断が重要です。PCR検査などの分子診断法が広く用いられており、適切な抗生物質の選択が求められています。さらに、手洗いやマスクの着用、換気の徹底などの基本的な感染予防策も重要です。

まとめ

マイコプラズマ感染症は、特に若年層に多く見られる呼吸器感染症で、乾いた咳や発熱などの症状が特徴です。迅速かつ正確な診断と適切な治療が重要であり、特に耐性菌の増加に対応するためには治療法の選択に注意が必要です。予防策として、基本的な手洗いやマスクの着用、換気の徹底が推奨されます。感染が疑われる場合は早期の受診をお勧めします。

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