乳幼児喘息について|5歳以下の喘息
小さいお子さんは気管支が細く、風邪をひいたときに「ゼーゼー」「ヒューヒュー」とした呼吸音が出ることがあります。
一度だけであれば、ウイルス感染に伴う一時的な喘鳴のこともありますが、何度も繰り返す場合には「乳幼児喘息」として治療を考えることがあります。
乳幼児喘息は、成長とともに症状が軽くなったり、薬を中止できるようになることもあります。一方で、適切な治療を行わないと、発作を繰り返したり、夜間の咳や運動時の症状が続いたりすることがあります。
大切なのは、単に咳やゼーゼーをその場で抑えるだけではなく、気道の炎症をコントロールし、発作を起こしにくい状態を保つことです。
この記事のポイント
- 乳幼児では、風邪だけでもゼーゼーすることがあります
- 繰り返す喘鳴や夜間の咳があるときは、乳幼児喘息を考えます
- 治療は「発作時の対応」だけでなく「発作を予防する長期管理」が大切です
- 症状が安定すれば、薬を減らしたり中止を検討できることもあります
1.乳幼児喘息とは
乳幼児喘息とは、主に5歳以下のお子さんで、咳や喘鳴、呼吸苦を繰り返す状態をいいます。
乳幼児は大人や学童期の子どもに比べて気道が細いため、風邪をきっかけにゼーゼーしやすい特徴があります。そのため、1回の喘鳴だけで喘息と診断するのは難しく、症状の出方や繰り返し、治療への反応を見ながら判断します。
特に、いったん症状が治まった後も、別の機会に明らかな喘鳴を繰り返す場合には、乳幼児喘息の可能性を考えます。
2.どのような症状があると乳幼児喘息を疑うか
以下のような症状がある場合、乳幼児喘息を疑います。
- ゼーゼー、ヒューヒューする
- 咳が長引く、特に夜間や明け方に多い
- 風邪のたびに咳や喘鳴を繰り返す
- 呼吸が苦しそうで、胸やお腹を大きく動かしている
- ミルクや食事の量が減る、機嫌が悪い
乳幼児では、症状を本人がうまく説明できないため、保護者の方から見た「呼吸が苦しそう」「胸やお腹を大きく動かして呼吸している」「ミルクや食事の量が減る」「機嫌が悪い」なども重要な情報になります。
3.乳幼児喘息の診断
5歳以下の乳幼児期に、明らかな呼気性喘鳴を3回以上繰り返す場合には、乳幼児喘息として考えます。
ただし、3回以上ゼーゼーしたから必ず喘息というわけではありません。乳幼児では、ウイルス感染に伴う一時的な喘鳴や、気道が細いことによる喘鳴もあります。
乳幼児では呼吸機能検査が難しいことも多いため、診察所見と経過を丁寧に確認しながら診断していきます。
4.喘息性気管支炎との違い
「喘息性気管支炎」と説明されることがあります。
これは、風邪などの気管支炎に伴って、喘息のようにゼーゼーする状態を指して使われることが多い言葉です。一方で、乳幼児喘息は、ゼーゼーや咳を繰り返し、気道が敏感になっている状態です。
| 喘息性気管支炎 | 乳幼児喘息 | |
|---|---|---|
| きっかけ | 風邪などの感染をきっかけに一時的に起こることが多い | 風邪をきっかけにしつつ、繰り返し起こることがある |
| 症状の出方 | その時だけのゼーゼーで終わることがある | 夜間・明け方の咳、反復する喘鳴、長引く咳を伴うことがある |
| 治療の考え方 | 一時的な対応が中心 | 継続的な管理が必要になることがある |
乳幼児喘息は、風邪のたびに繰り返したり、夜間や明け方の咳、気管支拡張薬への反応、アレルギー体質などを伴い、継続的な管理が必要になる状態です。
ただし、乳幼児ではこの2つを最初からはっきり分けることが難しいこともあります。最初は喘息性気管支炎として経過を見ていても、症状を繰り返す場合には乳幼児喘息として治療を考えることがあります。
大切なのは、病名だけにこだわることではなく、お子さんが発作を繰り返さず、夜眠れて、元気に生活できる状態を目指すことです。
5.乳幼児喘息の治療
喘息には、症状が落ち着いている「安定期」と、咳やゼーゼーが強くなる「発作時」があります。乳幼児喘息の治療は、大きく分けて「発作を予防するための長期管理」と「発作時の治療」があります。
喘息は、気道に炎症が起こり、気管支が狭くなることで咳や喘鳴、息苦しさが出る病気です。症状が落ち着いている安定期でも、気道の炎症が完全になくなっているとは限りません。たとえると、気道の中に小さな「火種」がくすぶっているような状態です。
そこに風邪やアレルギー、冷たい空気、煙などの刺激が加わると、炎症が強まり、咳やゼーゼー、呼吸苦などの発作が起こります。
そのため、喘息の治療では、発作が起きたときに症状を楽にするだけでなく、安定期から気道の炎症を抑え、発作を起こしにくい状態に整えることが大切です。
治療の3つの目標
小児喘息では、成長とともに症状が出にくくなり、薬を中止できるようになることがあります。
最終的には、発作が起きず、日常生活に制限がなく、呼吸機能も安定し、薬がなくても症状が出ない「寛解・治癒」を目指します。
乳幼児の場合、呼吸機能検査がむずかしいため、主に症状のコントロールとQOLの改善を目指していきます。
6.発作を予防するための長期管理(安定期の治療)
乳幼児喘息では、発作を起こしにくい状態にするために、長期管理が重要です。要点は①薬物療法、②増悪因子への対応、③患者教育・パートナーシップの3つです。
① 薬物療法
喘息の重症度分類と治療ステップ

小児ぜん息治療ガイドライン 小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020 第7章ぜん息の治療より引用
乳幼児喘息の治療は、症状の頻度や発作の強さ、生活への影響などをみながら調整します。喘息の薬物療法では、「治療ステップ」という考え方があります。
治療ステップとは、喘息の状態に合わせて治療の強さを調整する方法です。
症状が強い、発作を繰り返す、夜間の咳が多い、発作止めの薬を使う回数が多い場合には、治療を強める「ステップアップ」を行います。
反対に、症状が安定し、発作が少なくなっている場合には、薬の量や種類を少しずつ減らす「ステップダウン」を検討します。
長期管理薬の例
- ロイコトリエン受容体拮抗薬(LTRA)
- 吸入ステロイド薬(ICS)
LTRAは、喘息やアレルギーに関係する炎症反応を抑える内服薬です。吸入ステロイド薬は、気道の炎症を直接抑え、発作を起こしにくくする中心的な治療薬です。
② 増悪因子への対応
「JPGL2020(小児気管支喘息治療・管理ガイドライン)」より引用
増悪因子の例
- 風邪などの感染
- ダニ・ほこり・ペットなどのアレルゲン
- たばこの煙
- 冷たい空気、気候の変化
③ 患者教育・パートナーシップ
小児喘息の治療では、薬を使うだけでなく、患者さん本人・ご家族・医療者が一緒に病気を理解し、継続して管理していくことが大切です。
吸入薬は正しく使えていないと十分な効果が出ません。年齢に合わせてスペーサーやマスクを使用し、吸入手技を定期的に確認することが重要です。
また症状が落ち着くと自己判断で薬を中止してしまうことがありますが、治療の中止や減量は、発作の有無や夜間症状、運動時症状などを確認しながら慎重に行います。
医師が薬を処方するだけでなく、ご家族と一緒に治療の目的を共有し、無理なく続けられる方法を考えていくことが、良好なコントロールにつながります。
7.発作時の治療
ゼーゼーして苦しそうなときや、咳き込みが強いときには、気管支を広げる薬を使用します。
代表的な薬に、短時間作用性β2刺激薬があります。この薬は、狭くなった気管支を一時的に広げて、呼吸を楽にする薬です。
ただし、気道の炎症そのものを治す薬ではありません。
注意
発作止めの薬を何度も使わなければならない状態は、喘息のコントロールが不十分な可能性があります。発作を繰り返す場合や、発作止めの薬を使う回数が多い場合には、発作を予防する治療の見直しが必要です。
8.吸入薬はいつまで続けるのか
小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2020より改変引用
乳幼児喘息では、成長とともに症状が軽くなるお子さんもいます。そのため、ずっと薬を続けなければならないとは限りません。
ただし、吸入薬は「咳が止まったらすぐに終了」ではありません。症状が落ち着いていても、気道の炎症や過敏性が残っていることがあり、急に中止すると再び咳や喘鳴が出ることがあります。
一般的には、数か月以上症状が安定していることを確認し、発作がなく、夜間症状や運動時症状もない場合に、治療の減量を検討します。低用量の治療でも安定した状態が続けば、中止を検討することがあります。
治療をやめる時期は、お子さんの症状の出方、発作歴、季節性、アレルギー体質、感染時の悪化のしやすさなどを見ながら判断します。
特に、秋冬や花粉の時期など、喘息が悪化しやすい季節の直前に中止する場合は慎重に考える必要があります。
9.まとめ
乳幼児喘息は、乳幼児期に咳や喘鳴を繰り返す病気です。
小さいお子さんは風邪だけでもゼーゼーすることがありますが、症状を何度も繰り返す場合や、夜間咳嗽、気管支拡張薬への反応、アレルギー体質がある場合には、乳幼児喘息として治療を考えます。
治療では、発作を抑えるだけでなく、気道の炎症をコントロールし、発作を起こしにくい状態を作ることが大切です。症状が安定すれば、治療を少しずつ減らし、最終的には薬を使わなくても安定した寛解を目指します。
「風邪のたびにゼーゼーする」「夜間の咳が続く」「咳が長引きやすい」などがある場合は、乳幼児喘息の可能性についてご相談ください。
